ご存知でしたか?
 今、学校では空前のシャープペンシルブームなのだそうです。文具王も言ってました。
 文房具店に行ってみると、カッコいいシャーペンやレアなシャーペンを求めて、子供達が右往左往している姿を見かけます。
 ちょうどその年頃のお子さんを持つお母さんやお父さんたちは、オレンズネロのようなお高いペンをねだられた経験があるんじゃないでしょうか。

 それって、別に「使いやすいシャーペンでバリバリ勉強してやろう!」っていうモチベーションじゃないんですよね。
 単純に「他人があまり持ってないものを持って行って見せびらかしたい!」とか「あの子が持ってて羨ましいから自分も欲しい!」っていう誰にも身に覚えのある動機なんですよ。
 お父さんやお母さんにだって子供の頃はそんなブームあったでしょう?
 それが今はシャープペンシルが対象になってるってだけの話です。

 大昔に「キン消し」なるものが流行った事がありました。
 キン肉マン消しゴムの略で、要はゴム製の小さいフィギュアなのですが、消しゴム=すなわち文房具なので学校に持って行っても怒られないとして子供達に大ブームになりました。
 それと同じで今ブームのシャーペンも「学校に持って行ける友達に自慢できるもの」という括りなのです。
 キン消しが実際に使えるかはどうでも良かったように、今流行ってるシャーペンも使いやすさは二の次です。
 そんな使いにくいシャーペンで勉強を頑張れると思いますか?
 勉強するために買うんじゃないんですよ。
 当時キン消しで勉強する子供なんて居なかったように。

 なので子供達が欲しがるのは「使いやすくて手に入りやすいもの」ではなく「他人が持っていなくて手に入り難いもの」に重点が置かれます。
 だからこそそこにオレンズネロがハマったんでしょう。高額で子供にはおいそれとは買えず、品薄で店頭でも売ってませんでした。
 そしてマニアが高じてくると、誰も買えないものという事で廃番品を探し始めます。
 狙い目は時の流れが止まっているかのように在庫が古い個人商店だとか。失礼な話ですね。
 またとあるお子様は、海外製高級ブランドのメカニカルペンシルに手を出したりします。
 虎の子のお年玉の残りを握りしめて専門店でショーケースを眺めているお子様なんかもたまに見かけます。

 ・・・んー。
 廃番品ってのはね、使いにくくて人気がなかったから廃番になったのですよ。
 人気があって長く売れてる現行品の方がずっと質が良いのは当たり前です。
 またシャーペンなんて使っているのは日本人くらいなもので、だからこそ国産シャープペンシルの性能は異常進化しているのです。
 海外では専門職の人以外はまず使わないので、ほとんどのものが国産に劣ります。
 特に高級ブランドなんて軸のラインナップとしてとりあえず入れてるだけで、性能は全く考慮されていません。
 そんなもの買うくらいなら同じ予算で国産のプロ用を買った方が性能は雲泥の差です。
 ・・・って言いたくなりますが、それは野暮ってものなんですよ。
 子供達が欲しいのは、あくまでも「誰も持っていないもの」であって、性能が良くて使いやすいものではないのです。
 レアなポケモンを捕まえて友達に自慢したいっていう心理と一緒です。
 ポケモンと違うのは、レアなポケモンは性能も高いけど、レアなシャーペンは性能が低いって事くらいですかね。

 最近の文具業界もこのブームに乗っかって、やたらと限定品を連発していますよね。
 限定だから「誰もが買えるわけではない」というイメージで売るわけです。
 実際はブームに踊らされているお子様達が全員買えるくらいのロットは用意してたりするわけですが。
 うん。それは別に良いのですよ。
 ブームでも何でも利用して、売り上げが伸びるのは良い事です。
 ただ私が危惧するのは、ブームに乗っかりすぎる事の危うさです。
 ブームをアテにして売り上げを伸ばすのは良いけど、ブームが終わった時のことを考えているんですかね?
 今の子供達による「レアであればあるほど欲しがる」という状況では、商品そのもののポテンシャルではない所での勝負になります。
 となるとマーケティングにリソースを多く割き、商品開発による技術力向上がおざなりになってしまいます。
 しかしブームなんていつかは終わります。人類の長い歴史上でも終わらなかったブームなんてありません。
 そうなった時に、はたして他社と競争できるような開発力は残っているのでしょうか。
 流れに車輪を乗せるのは良いとして、途切れたらいつでも元に戻れたり切り離せたりする体制は作っておかなければなりません。

 例えば昔、だいぶ傾いていた大手企業があって、行き詰まって他社との合併を計画していた頃に、偶然爆発的ブームを起こした商品を作ってしまいました。
 それはもう社会現象になるくらいで、調子に乗ったその会社は合併なんて必要ないと蹴ってしまいました。
 その後ブームに乗った新商品を次々と発表して売り上げを伸ばしたのですが、そのブームは始まった時と同様に突然終わってしまいました。
 するとその商品を柱にしていたせいで売り上げはどんどん落ち、結局、以前に話のあった所とは違う会社と合併してしまいました。
 そういうストーリーを間近で見ていたので、例えば今このシャーペンブームで売り上げを伸ばしているあの会社は、なんとかごっちの二の舞になるんじゃないかと心配しているわけです。



 延々とグダグダと書いてきましたが、私自身はシャープペンシルに何の思い入れもありません。
 専門職の人ではありませんから、シャーペンを使う機会はほぼありません。
 ただ、シャープペンシルってのは「書き心地の悪いペン」の代表格なのですよ。
 国内メーカーが頑張って開発してあそこまでのものにはなりましたが、逆に言うとせいぜいそこまでのものです。
 高度な技術力で作られたシャーペンより、中華で低コストで作られた万年筆やローラーボールの方が書き味は上だったりします。
 なので子供達が「勉強が楽になる性能が良くて使いやすいシャーペンが欲しい」と免罪符のように唱える度に「じゃあ万年筆使えよ」と思うわけです。
 本当に勉強の効率化のためにペンが欲しいのなら、筆圧が要らなくて疲れないのでその分多く勉強出来る万年筆が一番です。
 事実、大量に筆記する必要がある司法試験を勉強する人たちは万年筆を使っています。
 本当は勉強とは関係ない「レアなシャーペンを手に入れて友達に自慢したいだけ」って本音を偽るのが気に入らないっていうか。

 いや、そんなことを言いたいわけでもありません。
 ぶっちゃけますね。
「シャーペンはいいからもっと実用的でデザインの良いペンを作ってくださいよ」
 国産のペンって大人が使えねーのよ。